TONARIの 色撮り撮りの「渓 谷・ 滝」

細見谷 (上流域) 02/10/20
広島県廿日市市吉和

細見谷の渓畔林
 
 細見谷は、十方山と県境尾根五里山に挟まれた傾斜の緩やかな上流域と、断層面に直交して流れ落ちる急峻な下流域の2つに分けられる谷で、日本百名谷に選ばれた広島を代表する名谷である。ただ、三段峡や帝釈峡のように観光地化されておらず、観光客が気軽に歩けるような渓谷ではないため、一般な知名度は低い。

 下流域は、渓流遡行の技術がある一部の人しか入谷できない秘境で、百名谷に選ばれている。かつて林道が造られようとしたことがあったが、自然保護団体の要請で中止され、今でも林道の跡が残っているとのこと。

 上流域は、前述の通り傾斜の緩やかな渓谷で、北東−南西の断層面に沿って川が流れる。ここの特徴として、イヌブナ(クロブナ)、サワグルミ、トチノキなどによる渓畔林が形成されており、この稀有な渓畔林は広島県の貴重な財産である。

 このHPを閲覧していただいている方には周知の通り、この細見谷(上流域)には林道が通っており、この林道を大規模林道化しようという計画がある。この問題点については「ぼくらの川のブナの森」に詳しいのでそちらを参照していただくとして、どのようなところか私の視点でご紹介したいと思う。
 


 細見谷(上流)に入るには、恐羅漢方面の二軒小屋からと、匹見町に抜ける国道488号線から入る道の2つがある(下流域から遡上する道、島根県の広見谷からボーギのキビレ(横川越)を越える道もあるが、一般の方のアプローチは難しい)。今回は二軒小屋から入ったので(分かり易いので)こちらからのアプローチを紹介する。

 戸河内ICを下りてまっすぐ国道191号を走り、JR戸河内駅前を通り過ぎて約500m、左手に橋がある信号のところで左折して橋を渡り、すぐを右折する。県道252号恐羅漢公園線を狭い箇所に注意して進み、内黒峠を越え(周辺の紅葉がきれいだ)、下りきって左に行くと大きな二軒小屋駐車場があり、山の中にしてはきれいなトイレがある。

ナギナタコウジュ 
 駐車場の端にはナギナタコウジュの小さな群生があり(左の写真)、この葉っぱに鼻を近づけるといい香りがする。
 
 花はこのナギナタコウジュとアザミ、コウヤボウキ、ノコンギクぐらいで、この時期多くの花は終わっている。一本だけオタカラコウが元気に咲いていた。
 
 駐車場を出て左に歩き始めると舗装路はすぐに終わる。今日は曇り空のため展望がないが、周りの紅葉もしっとりとしてきれいだ。
 
 ダート道に代わり、ひたすら植林の中を歩いていく。民家を過ぎいくらか進むと、植林の合間から紅葉が見えるようになる。
横川川へそそぐ小さな滝 
 渓流と離れたところを歩くので、渓流と紅葉という構図はあまり望めないが、少し離れたところから見ても淡い黄葉、カエデの紅葉、ツタウルシの真紅の紅葉、色づき始めた黄緑色の葉っぱなど、色とりどりの色を眺めることが出来る。植林と思われる暗い林が多いので、ところどころしか見られないのが残念だ。
 
 また、横川川(よこごうかわ)へ流れ落ちる小さな滝がいくつか見られた(左の写真)。
 
 時折渓流と合流しながら緩やかに道を登ってゆくと、約40分(普通に歩くなら30分)でカーブの所に十方山登山口(シシガ谷登山口)がある。横川川は十方山シシガ谷を源流とする。

 登山口を過ぎ、約10〜15分ほど歩くと水越峠に着く。水越峠から緩やかな下りになり、10分ほどでカーブになったところにある小さな橋の上でケンノジ谷の流れと出会う。細見谷の流れはこの上流付近(旧羅漢山方面)と反対側の十方山のコムギ谷から始まる。

 沢の音と紅葉した木々を見ながら緩やかに下り、鬱蒼とした植林が切れ、曇り空でも鮮やかな紅葉が目に入る。
クロブナの黄葉 
 ブナやトチノキなので黄葉だが、カエデらしき赤い色の葉っぱもところどころあるので、コントラストが鮮やかだ。
 
 木に絡みつく真紅のツタウルシもきれいだ。
トチの大木と流れ 
 いつまでも林道が渓流のそばに来ないので、適当なところで少し藪こぎして渓流のそばに分け入る。

 河原に出るまでぬかるんだ場所(渓畔林の特徴?)を横切り、ちょうど河原になっている箇所に出てみると、渓畔林と美しい渓流が現れる。
 
 流れのすぐ側に苔むした老木が根を張り、まるで流れに足を浸しているように見える。樹木の知識は乏しいので心許ないが、古めかしく見える樹肌の雰囲気と葉っぱのつき方からしてトチノキと思われる(左の写真)。

 辺りを観察すると、渓流の両側は落葉樹の林となっているが、その更に外側は植林の暗い林となっている。当てにならない距離感で言えば、落葉樹の林は100m位の幅しかないように見える。この谷全体からみれば、わずかな範囲しか残っていないようだ。
細見谷の流れ 
 この流れを見ていると、テレビや写真でしか見たことがないが、奥入瀬渓流を連想する。水量が少な目な点を除けば雰囲気的に似ているように思う。
 
 曇天であることも影響しているであろうが、人間の存在が空虚に思われるくらい静かで、しばし川のせせらぎと木々のざわめきに耳を傾けた。
 
 落葉が多いのでもう少し早い時期でも良かったのかもしれない。
 
 ここで昼食を摂り、ごみを落としていないか確認してこの場を去る。このまま進んでも良いのだが(というか進みたかったのだが)、天気が午後に崩れるとの予報だったのでここから引き返すことにする。今度は天気の良い日に時間をかけて歩くことにしよう。
根を水に浸す老木 
 1時間強かかって二軒小屋の駐車場に戻る。

 十方山は紅葉も良いので登山者も多いはずだが、私の他は車一台と寂しい。こんな天候で山に入るのは山好きくらいだろう。林道を走るバイクとも1台もすれ違わない。
 
 今回細見谷を歩いてみての率直な感想は(写真を撮る人間として)、渓谷は間違いなくきれいなのだが、手入れのされていない鬱蒼とした植林が景観を損なっていると感じた。植林には根元の曲がっている木も多く、林業が営まれているという雰囲気はない。別に植林が悪いとは言わない。手入れの行き届いた植林は整然として美しいし、カメラのレンズを向けたくなる雰囲気を持っている。しかし、今の現状では「邪魔」にしか思えない。標高8〜900m以上ではスギの生育が悪いとのこと。
 
 同じ渓畔林を持つ奥入瀬渓流は、渓流のすぐ側を道路が通り、排気ガスの影響で木が枯れていると聞く。全国でもトップクラスの人気を誇る新緑・紅葉の名所だが、長い目で見るとその貴重な自然は次第に失われてゆくのかもしれない。
 
 大規模林道化には無論反対だが、だからと言って細見谷を観光地にすべきではないと考える。ツキノワグマの生息地域を侵してしまうという面もあるし、マナーを心得ない「観光客」の入谷は歓迎できない。今回細見谷の一部を歩いた感じで言うなら、往復3時間程度の歩きが必要なのは、単なる観光では歩く気になれない距離であり、渓畔林を学ぼうという自然学習の場として活用するのがよいと思われる。
 
 
※1.本ページの写真は全てポジフィルムで撮影しています。
※2.文章中の谷の名称等については、桑原良敏
著『西中国山地』(渓水社)に記載してある表記を使用させていただきました。
 

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