TONARIの 色撮り撮りの「紀行」

アートキャンプ in 百島’25 2025年5月24日
広島県尾道市百島町

シースピカ

 尾道市の離島、人口約400人の百島。
 ここには現代アートで高い評価を受ける柳幸典氏が、中学校跡地を現代アートの展示空間にしたユニークな施設、アートベース百島がある。
 2年前、そこでアートキャンプというイベントを開催するということで、ボランティアスタッフとして関わった。
 今回2年ぶりにアートキャンプを開催するということで、ボランティア参加のお声がけがあり、新しい企画展示も面白そうなので参加することにした。

 お手伝いは前日から参加することになり、有給休暇を取得する。
 電車で尾道まで移動し、港のレストランでパスタをいただき、1時過ぎの船を待つ。

船から見る尾道の町並み百風

 前回はフェリーの「百風」だったが、今回は高速船(双胴船)の「ニューびんご」である。尾道から百島の福田港は片道870円。
 乗り込もうとしたら隣にシースピカが停泊していて、写真を撮ろうとそちらに向かおうとして、乗り場を間違っていると思われたのか注意された。

 途中で満越港に寄っただけで40分ほどで到着。満越港では入港待ちの百風と出会ったので、これ幸いにと撮影。
 定期航路のフェリーだが、デザインがカッコイイ。青空だったらもっと映えていただろう。
 
百島 福田港センダン

 福田港に到着して歩き始める。干潮なので、湾になった方の港は砂が見えている。
 あれ?山に紫色のモワっとした花が見えるな〜シイノキの花の時期は終わっているし、色も違う。ああ、この時期ならセンダンだろうと見当をつけるが、結構な範囲で見られる。前回ウバメガシの花とフジの花を見たので今回はミカンの花を期待していたのだが、他の花も楽しめそうである。
 港からアートベースに向かう途中で近い位置にセンダンが見えた。背が高く花を近くで見ることは少ないと思うが、山肌が薄い紫色になる姿が美しい。色の濃淡があるので、咲き始めから終わりまで幅広いのだろう。百島がセンダンの名所だとは思わなかったな。センダンは巨木化するので、探したら大きな木が見つかるだろうか。
 
ミカン
 アートベース百島の近くの畑にはミカンの花が咲いている。
 花から実になりつつあるもの(左の写真)も、良く咲いているところもある。
 やや盛期が過ぎたくらいかもしれないが、木によって幅がある。
 この時期に咲くクロガネモチも咲いていた。

 アートベースの受付へ行き、担当の方と再会。
 取り敢えず力仕事はなさそうなので、イベント当日のカフェメニューの下ごしらえを手伝う。
アートベース百島

 前回もボランティアとして参加された方とも再会し、休憩をはさみながら黙々と作業。
 夕方になって大学生ボランティアも合流し、グラウンドで行われている映像のテストを見ながらまかないを食べ、シャワーを浴びてからテント泊。
 前回は寒かったので、冬用の上着を持って来たまでは良かったが、枕を忘れていたので、服やタオルを重ねて枕にする。
 寒くはなかったが、いつもと寝床が替わると熟睡までは出来なかった。
 
アートベース百島の玄関≪オイル・プール≫

 5月24日。イベント当日の天気予報は雨で、強い雨の模様。ライブイベントは中止もあり得る状況で心配になる。
 音響関係は大雨だと問題があるし、そんな天候だと参加者も減るだろう。
 
他のボランティアさんたちと
 朝ご飯を食べてからボランティアの皆さんと各展示会場の下見などを行う。
 上の写真は常設展示の一つで、原口典之の≪オイル・プール≫。ここの代表的展示のひとつ。
 中学校跡地を再利用しているので、そういう雰囲気がするのではないだろうか。

 常設展示の他に今回加わったのは、河合政之さんの作品 ≪Video Feedback Configuration No.5 Generator Cuboid 1≫

 ビデオフィードバックの手法とのことだが、時とともに模様が変化していく不思議な映像で、飲み込まれるような、酔うような、タイムトンネルを通っているような形容しがたい色の変化である。手前にはケーブルの塊りがあり、アナログとデジタルとの関係も示唆しているのか。

 あとは柳幸典さんが韓国で行っているプロジェクトの展示がある。韓国にまで行くことはないと思うが、面白そうなことをしている。

 他の展示会場に移動する。遅れないようにしながらも、後方でひっそりと雨中の花を撮影をする。
 廃屋にはびこるテイカカズラの花が雨粒で光ってキレイであった。ミカンの花もかわいらしい。

 その後、各人の担当の仕事の説明を受ける。
テイカカズラミカンの花
焚き火昼ご飯のカレー

 最初はグラウンドの見回りを担当するが、この雨では客足があまりなく、時々トイレの水を確認しに行くがほぼ変化はなく、雨宿りをしながら焚火にあたるくらいですることがなかった。午前中は雨が強くグラウンドに水が溜まり、靴下まで濡れる。

 お昼到着の船便の時間くらいになるとようやくお客さんが来るようになったが、まだ大して仕事がなさそうなので、先に出店でお昼ご飯にする。
 雨でなければもっと賑わっていただろうなあ〜前回カレーが美味しかったので、今回もカレーにする。スパイシーで美味しく、この後の仕事がなければビールが欲しかったところである。
 
日章館ヒノマルイルミネーションとNAGATO

 次の担当になっている旧支所に向かう。
 途中で日章館に寄って2年ぶりに《ヒノマル・イルミネーション》を観る。柳幸典さんの新作、《Nagato 70・1 Prorotype》の展示もある。
 戦艦長門は日本海軍の象徴のような船であり、第二次世界大戦を生きながらえたが、ビキニ環礁での水爆実験の標的にされて沈没したそうである。
 組み立てられた戦艦の大型模型ではなく、本体部分、甲板と船底は一体型だが、他のパーツはプラモデルのキットのように屏風のように立てて展示してあり、鋳物の重厚感にカッコ良さを感じる。戦いの役割を原始時代から担ってきた本能的なものだろうか、男の子は小さい頃から戦いの道具や兵器に興味を持つ。私も子供の頃にガンプラを組み立てて遊んだし、戦艦も作ってことがある。そういった戦いへの興味と実際に戦争することとは別ではあるが、境界はどこかな?。興味や遊びの延長のようでいて、別の線からの延長のような気もする。

 沈んだ戦艦は消された記憶でもあるが、まだ残骸として存在しているのだから、こうして疑似的に再現することで、記憶が立ち上がってくるのかもしれない。
 外光と暗闇の混じる中にひっそりとたたずむ「長門」は、100円を投入してヒノマルイルミネーションを動かすと赤く色づき、歴史において何度も繰り返されている戦いの炎を連想させる。日本の象徴たる日の丸と、武力の象徴たる長門を同じ空間に展示する意味合いがありそうである。
 
フェニックスムラサキツユクサビワ
トークショー
 14時からはトークショーなので旧支所へ移動する。

 写真を頼まれたので、お話を聞きながら、出来るだけ邪魔にならないようサイレントシャッターで撮影する。

 会場は狭いので席数はあまり多くなかったが、ほぼ席は埋まっていて盛況だった。

 興味深い内容だったが、記憶違いや思い込みはあると思うので、以下は参考程度にして欲しい。

 渡辺真也さん(映画監督/インディペンデント・キュレーター)は原爆を投下したエノラ・ゲイの意味を調べた話や、原爆を投下したことは肯定しながらも、別の側面をみると、深層の部分は違ったかもしれないという話や、ホピ族の話、沖縄での話から、戦争の被害者と加害者両方に心の傷があることなど、コミュニケーションの問題などの話を展開。生成AIで作成した画像についても話題になった。ドリーミング(時間や空間を越えた神話的・精神的な世界観?)がキーワードとなっていた。

 米谷健+ジュリアさん(現代美術家/無農薬農家)は2階で展示しているウランガラスを使った作品について経緯を説明。原発の問題を作品化しようとしている時にウランガラスと出会ったという。お二人は京都府南丹市で農業をされている。

 山本昭宏さん(歴史学研究者/神戸市外国語大学准教授)は鉄腕アトムやゴジラなど、原子力や核兵器に関わる作品について言及していく。意外とこれらに触れた作品が多いようで、ゴレンジャーや仮面ライダーなどでも触れられているそうだ。子供の頃は全く意識していなかったな。

 ”正義”の側は原子力を”正しく”管理し利用しているが、”悪”の側はそれを攻撃する”悪い奴ら”という構図がある。原子力は悪い奴らから守られるというプロパガンダということか。日本政府、アメリカ、その他からの圧力?原子力の平和利用というのは未だに言い続けている。ただ、悪役側にテレビを模した怪人が居て、メディアが悪であるという制作側の意図も含まれているかもしれないという指摘もあった。圧力があったとしても、ただその指示に従うだけでなく、なにがしらの抵抗はあるのかなと。核兵器自体は持てないが、その材料は持っているので、将来的に核武装したいと考える勢力は存在しているのだろう。
 
《大蜘蛛伝説》と《クリスタルパレス》
 旧支所の2階で展示されているのは、米谷健+ジュリアの《大蜘蛛伝説》と《クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会》。

 ウランガラスは黄色いが、ブラックライトを当てると緑色に輝くという。

 ≪クリスタルパレス≫は、ウクライナ、ベルギー、ロシアの3カ国。各国の原子力発電の出力に合わせてシャンデリアの大きさが違うとのこと。純粋に美しいと言えるが、ウランが含まれていると思うと怖さも感じる(ウランは微量なので健康には問題ないそうだ)。

 《大蜘蛛伝説》は、国内唯一のウラン鉱床である岡山県の人形峠に伝わる大蜘蛛の伝承に由来する。峠で旅人が大蜘蛛に襲われるので、人の代わりに人形を置き、大蜘蛛がそれを襲っている隙に退治したという。オーストラリアでも似た話があり、そちらは蟻だという。その土地に居た部族とか、征服された側を怪物として例えたのかもしれない。それがウラン鉱床と紐づけられると、共に恐ろしさが共通するので、何やら警戒感を覚えずにはいられない。

 ところで、小さい子供たちが、この大蜘蛛を観てテンションが上がってしまい、はしゃぐように脚と脚の間を通り抜けてヒヤヒヤした。お母さんが注意していたので慎重にはしていたが、子供相手に注意するのは難しいな。自分の子供なら厳しく言えるのにな……
 
グラウンドおでんとビール

 トークショーが終わり、2階の展示に少しお客さんが行き、皆さんが出た後、旧支所を後にする。
 心配した雨はやんでいて、夜のライブは大丈夫そうで安心する。
 アートベースに戻り、ライブの開始までにはまだ時間がありそうなので晩御飯にする。
 昼はカレーだったから、今度はおでんとおむすびにし、生ビールをいただき、もうちょっと食べたいなと思って、今度はココナッツカレーにする。甘味がありながらスパイスが効いて美味しい。今度はレモンサワーでさっぱりと。
 
 花コージルウ&コロ

 仕事はとりあえず終わったので、のんびりとライブが始まるのを待つ。
 ライブは百島在住のバンド 花コージルウ&コロの演奏がはじまり、徐々に盛り上がる。ライブに行くことはないので詳しくはないのだが、素人が聴いてもいいなと思える良い演奏だったと思う。
 
切腹ピストルズ焚き火

 切腹ピストルズのライブが始まる。和太鼓や琵琶、三味線、横笛など伝統的な楽器を使うグループで、太鼓の響きが島の静寂を引き締め、掻き鳴らされる琵琶の旋律が幽玄へと誘う。音楽には詳しくはないが、ボーカルはいなくても、太鼓の鼓動がメロディーとなり、他の楽器がアクセントとなって一つの世界を作り上げていくような高揚感が漂う。ああ、これが本物かとちょっと感動する。

 観客は彼らの前に近寄り、思い思いに身体を躍動させ踊り出す。お祭りの高揚感である。そして和太鼓の叩き手は舞台を飛び出し観客を巻き込むように練り歩く。これが彼らのライブなのである。カメラを持つ私は頭が撮影モードに入っているのでその渦には巻き込まれずにいたが、ちょっと気配を感じたら、急に背中を押され、邪魔になったかなと移動しようとしたがそれが出来ず、太鼓でどんどんと前に押し出される。優しくもありながら神がかったような柔らかな圧力である。「写真なんか撮っていないで、おまえもこの渦の中に入れ」との思し召しだろう。はい、その通りでございます。

 ふと、クラッシック音楽との違いが思い浮かぶ。観客は静寂を求められ、それが当然という静まったホールで、様々な音色を持った楽器たちで紡ぎ出される音楽。それはそれで完成された美しさがあって惹かれる部分もあるのだが、何か物足りない感じもする。その物足りなさがこのライブで分かったような気がする。唯一神への統一した賛美と、八百万の神々とごっちゃになって生命力を震わすことの違いだろうか。おもしろいライブであった。
 
夜も更けて夜も更けて

 薄暗かった空はさらに光を減少させ、焚火台の炎が赤味を増してくる。
 テントの周りには、張った綱に引っ掛からないよう照明が囲い、キャンプの空気感を盛り上げてくれる。写真映えもするし、これはいいアイデアだな。
 
 次のライブは、DJ Keep Afloatさんが電子音による音楽?とそれに反応して変化していく模様がスクリーンに映し出される。
 よく分からないなあと思い(失礼……)、シャワーが空いているようなので先にシャワーにする。
 
コラボ
 サクッと汗を流してから再びライブ会場へ。

 よく分からないと思いながら見ていると、電子音の変化とそれに対応する模様の変化が不思議な世界観を作っている。電子音は好きではないが、こういうパフォーマンスは何か別展開を期待させるものは感じる。

 続いては切腹ピストルズとのコラボ。先程のライブより幽玄な雰囲気で、相性が悪そうな電子音と映像が何とも言えない調和をみせる。切腹ピストルズの演奏が映像になっているような、その逆のような。違うジャンルを交差させることで新たな広がりを見せている。

ライブ後はテントに入って寝る準備に入る。賑やかな声を何となく聴きながら就寝。
ミカンの花緑のトンネルの先に

 5月25日。朝の5時に目が覚め、天気はどうかな?とテントから顔を出すと太陽の光が見える。
 「これはいけるか!」と急いで着替えてカメラを準備して、アートベースを出て海岸に向かう。道は予習済みである。
 途中でミカンの花、花が終わって実になりつつある柿、満開のセンダンの花、クワの実、スイカズラ、オリーブなどを撮影しながら歩いて海岸に出る。
 
海岸から常石造船日の出

 曇っているので美しい日の出、という訳にはいかないが、辛うじて光の筋が出来ている。
 急いでタイムラプスの準備をして撮影を開始するが、どんどん太陽が雲間に隠れていくので、一旦タイムラプスを中断して、写真撮影に切り替える。
 天気が良かったらいい写真になりそうだが、良い写真は一発で撮れることは少ないので、またの機会にしよう。
 百島の風景として、対岸の常石造船が印象的である。
 
スイカズラクワの実
桜の実アートベース百島にあったセンダンの花
 アートベースに戻り、またグラウンドで花を撮影する。

 シロツメクサ、スイカズラ、テイカカズラ、桜の実など。

 ソメイヨシノはクローンなので、それ同士では結実しないのだが、赤や黒の実がついているところをみると、他の桜も混じっているよう(河津桜も植樹されていた)。桜の時期に来ても良いかもしれない。

 アートベースにもセンダンがあり、多くの花を咲かせていた。派手な花ではないので、こうしたしっとりとした空気にはよく似合う。
そばの神社
 今日はイベントはなく、後片付けで、長机や椅子をきれいにしていく。雨だったので泥跳ねがあるので、ちょっと面倒なものもある。

 ひと段落着いたところで休憩に入り、アートベースのみなさんは、柳さんを囲んで話をしており、部外者は一人離れて本を読む。

 お昼になったのでまかないをいただき、テント内のマットを拭いたり、寝袋を干したりしてひと段落ついたところで、今回の仕事は終わりになった。
百風福田港のアオサギとボート

 帰りの便を待っていると、一つ前に常石港行きのフェリー「百風」に出会えた。青空の中を走る百風はカッコイイ。
 帰りの船(ニューびんご)では天気が回復している途中で良い感じの光が差していた。
 かなり速度を出しているので少々怖かったが、良い光がある時はカメラマンはアドレナリンがでるのか夢中でカメラを構えた。
 景色が良いので、船上からの撮影も楽しめる。ただし、風が強いため気を抜くと転ぶので注意して欲しい。
 
 雨が心配されたが、大雨の予報からすれば、一番問題になりそうなライブの時間帯に降らなくて良かった。
 普段ライブに行く機会はないので、観客を巻き込む切腹ピストルズのライブを体感できたのは、新鮮な体験であり収穫だった。
 今回は私世代のボランティアはおらず、大学生など若い世代が殆どで完全に浮いてしまうのだが、邪魔にならなかったかな?
 島にアート鑑賞に行くという特別感があるし、高速船を使えば40分くらいで訪れることが出来る便利さもある。
 今回の特別展は7/20までだが、常設展示はあるので是非訪れてみて欲しい。

光る海ニューびんごの船上デッキから

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