TONARIの 色撮り撮りの「紀行」

現代アートの島 直島の旅’12 2012年12月15日〜17日
香川県香川郡直島町

【12月15日】

 私事なのでこのホームページでは特に発表はしていなかったが、2012年の7月に結婚をした。

 事情があって^^急な結婚式になり、ハネムーンの計画どころではなく式を挙げたため、ひと段落して落ち着いた半年後くらいに海外にでも新婚旅行に行こうかと思っていたところ、妻が妊娠し、長期間の旅行が難しくなった。

 子供が出来てからの旅行は何年か先だろうし、夫婦二人だけというのもずっと先になるので、安定期に入る時期を狙って、2泊だけ近場で新婚旅行をすることにした。

 行先はいろいろ悩んだが、二人とも美術館賞が好きで、広島市現代美術館などにもよく行っていることもあり、現代アートの聖地として国際的にも知られる、香川県直島に行くことにした。

 直島の周りの豊島、犬島など瀬戸内の島々に現代アート作品が点在しているので、当初は3泊くらいで見て回ろうかと思っていたのだが、妻の会社が休みを取りにくい状況であり、2泊だけにして、直島だけをゆっくりと回ることにした。

 現代アートというと訳のわからないものというイメージもあると思うが、何回もそうした作品に触れると、絵画や彫刻などと同じように、アーティストの表現したいことを表現したものであることが分かる。

 ただ、現代は技術の進歩もあり、表現方法が多種多様多彩で、伝統的な絵画、彫刻などの芸術に慣れていると、その表現の幅広さに面食らうのである。

 直島は現代アートの聖地として脚光を浴び、現代アートに親しんでいる人たちだけでなく、興味が無かった人たちも惹きつけ、国際的に知られるようになって海外からの旅行客も増えている。周辺の島々も巻き込み、島民も巻き込み、瀬戸内の島々がアートで盛り上がっているのである。

 2013年は瀬戸内国際芸術祭の開催というビッグイベントもあり、大勢の人がやってきてとてもじっくり鑑賞できる環境にはないため、その前に、年末の閑散期に行くというのが良いだろうと考えた。

 別に冬だから美術館が閉まるということもないし、食べ物のように旬があるわけでもないので、ゆっくりできる閑散期が狙い目である。
 

宇野港 雨の宇野港 
 出発する15日(土)はちょうど戌の日ということで、午前中に神社で安産祈願をし、両家の親と一緒に昼食会をしてから出発することになった。

 13時過ぎに家を出発し、高屋JCTから山陽自動車道に乗り、倉敷ICを越えて瀬戸大橋線に分岐して2つ目の早島ICで降り、カーナビに導かれるままに宇野港に到着。

 出発が少し遅れたので、16:30発のフェリーに間に合わないかも?と心配していたが、16時過ぎに宇野港周辺に来ることができ、事前に調べていた24時間500円の駐車場に車を入れる。

 JR宇野駅の東側、ヤマダ電機としまむらの間にある駐車場で、私が到着した時点では7割方埋まっていた。

 宇野港に向かうと空き地に何やらスクラップのようなオブジェがあったり、女神像があったり、アートの聖地と呼ばれる直島への玄関口っぽい雰囲気にしようとしている。
 
「宇野のチヌ」 宇野のチヌ 
 雨も降っているし、あまり時間に余裕がないのでそのまま直島行きの乗り場に向かう。片道280円。

 オフシーズンだけあって人は少なめのようだが、私のような観光客も多く見られる。

 雨なので周囲の景色はダメだが、折角なので展望デッキに出て簡単に撮影。

←『宇野のチヌ』を発見したので、船の上から撮影。
 でも暗いのでブレブレ写真だが^^
「赤かぼちゃ」 赤かぼちゃ 
 直島の民宿に電話して、送迎のお願いをする。

 約20分で到着し、宿の車で本村地区に移動し、民宿にチェックイン。

 素泊まりも出来るが、もう暗くて開いている店がよく分からないので朝夕2食付きにしておいた。オフシーズンでもさすが人気の島だけあって、他の部屋は埋まっていた。

←港にある草間彌生の「赤かぼちゃ」

【12月16日】
本村港 本村港朝日

 翌朝は朝食をとってから、まだ時間があるので周辺の街並みを散策。

 他の地域の人が見れば風情のある港町ということになるのだろうが、同じ瀬戸内の人間から見ればどこにでもある瀬戸内の港町である^^

 ただ、観光客向けのカフェや食事処、ギャラリーっぽいものがあるのが違うのだが、やはり島の人間の感性で作られたものなので、都会にあるような洗練された感じではなく、図画工作的?な感じ。それを味だと思ってしまえば面白いが、個人的にはあまりそそられるものはない。
 
街並み
 唯一興味を覚えたのが、焦がした木の板。

 材質によって焦げ方が違うし、見ようによってはアート作品にも見える。

 日常の生活の中に「美」は存在しているのだが、それに気付く感性を持っているかどうかの違いだけである。

 左側の写真の様な絵を”描いて”あるところもいくつかある。

 下の写真のような空き缶アートも。
本村地区マップ空き缶アート

 宿に戻って荷造りし、重いので宿に荷物を預けてチェックアウト。荷物を預かって貰えるのはありがたい。

  本村地区に泊まったのは、この地域で展開されている『家プロジェクト』を観るためである。

 10時からなのだが、チケットを販売している本村ラウンジ&アーカーブは10時を過ぎてから鍵を開けるのんびり状態。
 10時開館ということはその前に開館準備が出来ているはずだから、外で待っている人を気遣って数分前に開ければ良いのにと私などは思ってしまうのだが、街の人間の感覚を持ち込んではいけないかな(^^?

 韓国人と思われる女性グループと一緒に外で待ったが、国際的に知られているだけあって、外国の人も結構多い。

 受付で家プロジェクトの共通チケット1000円と、ネット予約が必要な『きんざ』だけの鑑賞料500円を払う。共通チケットは3つ折りで地図付きとなっていて面白い。

 どう回っても良いのだが、端から攻めようと、丘の上にある『護王神社』へ向かう。
 
家プロジェクト
「護王神社」
護王神社光学ガラスの階段 
 泊まった民宿の隣の階段を登ってゆくと景色の良い丘の上に出る。城跡だったようだ。

 ここから尾根沿いに道を進むと護王神社に到着。

 外見はシンプルだが、アーティストが設計しているので、他の神社ではあまり見ない構造となっている。

←拝殿から本殿へと続く階段がレンズに使われる光学ガラスで造られていて、神様がおられる本殿への道が特別な光で照らされているようである。
護王神社 
  この神社は元々ここに存在していて、傷みが激しくなって建て替えることになり、家プロジェクトに合わせてアーティストが手掛けることになった訳だが、地域の神社であるので、以前と同じように(アート作品としてではなく)地元の方がお参りに来たり結婚式を挙げたりするそうである。

 信仰の場所が“よそ者”のアーティストによって作り直されるというのは(どんな外観にされるか想像できなかっただろうし)、強い反対意見があったのではないかと想像するが、数多くの神社を見てきた私から見ても違和感はなく、シンプルで、より厳かな信仰の場所としてふさわしい雰囲気となっている。

 “営業”している神社よりよっぽど神聖な雰囲気である。

 おそらく直島の本宮に当たる?直島八幡神社より知名度はあるだろう。

 なお、普通の神社と同じく、外観だけなら時間外でも観ることが出来るが、地下にある石室に入るのにはチケットが必要。

 懐中電灯を渡されて、狭い道を通って突き当たりを右に曲がると、外で見た光学ガラスの階段がここまで続いていて、神聖な雰囲気に包まれた、静かな空間。そして帰ろうとすると細い廊下の先から瀬戸内海の光が輝く。

 護王神社を手がけたのは写真家の杉本博司。
 写真家は光と影を強く意識して撮影するので、光と影(闇かな?)の関係を意識して観ると面白いかも。
 
家プロジェクト
「角屋」
角屋 
 ここから山を下り(そのまま尾根を進んで直島八幡神社へ行き、そこから降りると『南寺』近くに降りられる)、平地に戻って少し歩くと『角屋』がある(左の写真)。

 何も考えず進んでいたら行き過ぎていた(笑)
 そこにあった家を活用しているので、街中に溶け込んでいて、意識していないと見過ごしてしまうのである。

 中に入って家に上がると水が張ってあり、その中でデジタルカウンターがいろいろなスピードで時を刻んでいる。

 直島の人々もアートに巻き込もうということで、それぞれのカウンターのスピードは、直島の人々が自由に決めたそうで、早いのもあれば遅いのもあり、単純に考えれば、子供は早いだろうし、お年寄りは遅いだろうし、その時の気分にも左右される。

 この古民家の一室の小さな空間の中に様々な人々の息遣い・時間が集められているように感じる。

 そして、薄暗い部屋で星のように輝くデジタルカウンターの光は、島の一人一人が輝いているということを表しているのだろうか。

 ここを手掛けた宮島達男の作品は、広島市現代美術館で『Death of Time』を観たことがある。
 デジタルカウンターを部屋の壁に帯のように繋げ、原爆が投下された8月6日でその光が途切れるが、また光の帯が続いている作品である。

 そうか〜美術館よりも広島市の古民家(は無いので再現して)に『Death of Time』を設置して、原爆ドームや平和資料館に訪れる人々に体感して貰ったら面白いな。

 広島市にはたくさん原爆に関係するアートはあるが、美術館だけの展示では見せ方がつまらない。というか、ヒロシマを訪れる人々は、原爆関連の作品がある県立美術館や現代美術館に足を運ぶ人が少ないので、面白い作品があっても気づいてもらえていない。見たら面白いのに、情報発信力が乏しいのが課題である。

 おっと、話が逸れた^^

 後は、普通のすりガラスに見えた窓に数字が表示されたりしていて、発見する楽しみもある。
 内部は撮影禁止なので(ネットで見ると、撮影している人はいるようだが…)外観だけ撮影する。
 
直島八幡神社
楠の巨樹
直島八幡神社のクスノキ 
 続いては、家プロジェクトの中でも人気のある『南寺』へ向かうが、途中で安藤忠雄美術館が建設されていた。敷地はそんなに広くないのだが、この狭い敷地にどんな建築物を建てるのか興味が湧く。今は全貌が分からないので、次来るときまでのお楽しみである。

  少し進むと妻が「あそこに大きな木がある。」と言うので、『南寺』への道から外れて直島八幡神社の参道を進む。

 すると幹周り5mを越えるクスノキが参道脇に立っていた(左の写真)。

 今回は巨樹巨木への訪問予定は無かったのだが、思いがけず大きな木に出会えた。

 壁と階段に挟まれているので窮屈そうであり、本来はもっと大きくなってよい木であろう。上部は枝葉が寂しく、根元は空洞化している。

 樹勢はあまり良くないようだが、広々としたところにあれば幹周り10mクラスになりうる素性の良さそうなクスノキである。

 環境さえ良ければ…人も同じか(^^;
直島八幡神社いつかは眠り猫
 
 折角なので神社へお参りすることに。そう言えば、本村地区の地図でこの辺に「いつかは眠り猫」という「?」な表記があったのを思い出す。そして随神門に行くと、可愛い猫の木彫がある(上の写真右側)。眠り猫のように有名になりたいのかな?

 緩やかに階段を上っていくと直島八幡神社。重厚な造りで存在感がある。
 摂社もたくさんあって、それぞれに狛犬があったりする。

 先程の護王神社は初期の神社建築に近いと思うが、こちらは時代を経て完成されてきた神社建築である。

 来た道を引き返して『南寺』へ。
 
家プロジェクト
「南寺」
南寺 
 『南寺』は少し人を圧するような黒い壁の四角い建物である。

 整理券が必要という話もあったが、今はオフシーズンなので、少し待つだけで入ることが出来た。

 最初に係の人から内部の見取り図を見せられ、壁に左手を当てて進んで下さいと説明される。中は暗闇なのだ。順番が来て他の人たちと一緒に壁に手を当てながらゆっくりと摺り足(笑)で進み、そしてベンチを手で探って座る。

 しばらく暗闇の中で何もすることなく暗闇を見ていると、何分か後、だんだんと目が暗闇に慣れて、今まで見えなかった四角いスクリーン?が見えてくる。

 そこまで来ると目が周囲の暗さに慣れているので歩くことも出来るようになり、他の人のシルエットが分かるほどの仄かな照明?がされている。その照明は最初からされているのに、目が慣れるまでは気付かない。つまり、見えているのに見えていないことがあるということ。見えないものが見えてくると世界が変わるのだと。ということかな。外に出る時に変な感じがするが、すぐに外の光に目が順応する。

 こういう体験型のアートは面白く、なるほど人気がある訳である。人数制限されるので、観る人の回転が悪いということもあるだろう。

 公園の端に同じように黒い外観のトイレがあるので入ってみたが、建物は面白いものの使い難いトイレで、私は好きになれないな^^

 アート観賞という場所ならば、作品をより良く見せるために快適性はある程度犠牲になっても仕方ないとは思うが、トイレなど日常的な行動をとる空間は、やはり使いやすさ、快適性に配慮すべきであり、そういう配慮が美につながると思う。美術館とかではトイレをチェックするのも面白い。
 
焼き板 
 ←民家の外壁の焼き板

 直島のマンホール↓直島のマンホール
 
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